団地から学ぶ、暮らしの中と外
Town
2022.08.05
団地から学ぶ、暮らしの中と外
最近、引越し先として団地が人気という話を耳にすることが多くなってきたきがします。
私もこどもが生まれて引越しを考えた時、団地が候補に上がっていました。
もともと団地は、主に高度経済成長期に都市部で働くために移り住んできた人々のために造られたものでした。
その多くは昭和30年代から40年代にかけて誕生したのです。
今では当たり前になっているダイニングキッチンのある間取りや、水洗トイレなどの先進設備がそろった生活は、当時の人々にとって憧れのライフスタイルだったのです。
半世紀ほど経った現代では建物の老朽化や、こどもが大きくなって転出することで入居者が減るなど様々な問題を抱え、多くの団地は衰退をしていると言われています。
しかし、改めてニュートラルな視点で見てみると周辺には緑が多く落ち着いた空間が広がっていたり、こどもの遊具が置かれた公園が点在していたりします。
この環境は都心のマンションではなかなか手に入らない環境なのではないでしょうか。
そこで、前回まではリノベーションを中心とした家の中のことを書いてきましたが、今回は家の外にある環境が与えてくれる「暮らし」というものを考えてみようと思います。
団地を丸ごと公園化する「左近山団地」
衰退しつつあると言われている団地ですが、中にはさまざまな工夫をすることで若い世代を取り込んでいるところもあります。
横浜市旭区にある左近山団地もその一つです。
1968年に竣工した左近山団地は、現在も4,800戸約9,000人が住んでいる大型団地。
相鉄本線・いずみ野線「二俣川」駅からバス便と決して好立地というわけではないにもかかわらず、近年若い世代が移り住んできているのだそう。
その人気の秘密を探るため、仕掛け人であるランドスケープデザイン事務所stgkの熊谷玄さんにお話を聞いてみました。
「きっかけは団地内広場整備の全国公募コンペでした。僕はこの近くで生まれ育ったので左近山団地の抱える課題を他人事とは思えなくって、この話を聞いた時『自分がやるしかない』と思ったんです」
熊谷さんがまず最初に考えたのは「環境だけなら東京で人気の駒沢公園にも引けを取らない」と自信を持って言える「広大な外部空間」と「豊かな緑環境」を、子育て世代の流入と住民コミュニティの活性化につなげられないかということでした。
掲げたテーマは「団地をまるごと公園化しよう」。
現状は人が滞在することのないオープンスペースに居場所をつくることで、まちなかに人がいる風景をつくろうとしたのです。
具体的に提案したのは
1 . みんなでつくる!みんなで使う!「左近山ベンチ」
2 . 歩く目的をつくる!「さんぽみち」「みち案内」
3 . 全部が違う個性を持った「専門公園」
4 . みんなで育てる「みちばた菜園」「みちばた花壇」
5 . みんなでDIY「左近山ものづくりラボ」
6 . 公園を見守り、使うコミュニティ「左近山パークレンジャー」
7 . 緑を知って楽しもう!「左近山植物図鑑」
8 . 団地どこでもピクニック!「左近山プレート」
でした。
この8つの外部空間活用アイデアを含んだ熊谷さんの「左近山ダンチプロジェクト」は24作品中見事に最優秀賞を獲得。
プランは実現へと動き出します。
ただキレイに整えるのではなく長期的な目線で住んでいる人たちが使い続けられるよう、住民と一緒にアイデアを考えながら広場をデザインしました。
住民と一緒にDIYでベンチを作ったり、ピザ窯を設置したりしながら、5ヶ月の期間を経て広場が完成したのです。
次に、熊谷さんは広場を運営するための有志団体を立ち上げました。その団体を軸に定期的にマルシェなどのイベントを開催することで、まず使ってもらい、イベントがない日でも日常的にこどもたちや年配の方々が集まるようになりました。
誰もいなかった広場はみんなの居場所として見事に生まれ変わったのです。
「左近山で暮らす人々は、実はすごくおしゃれでいろんなことを知っていて、教養がとても高い。
左近山での暮らしを楽しむことができる場を作ることで色々な世代が混ざるようなコミュニティがうまれるのではないかと思います。
そして、そんな暮らし方を発信することで、左近山で暮らしたいと思う人を増やしていきたい」
と、地元愛たっぷりに語ってくれた熊谷さん。その想いを形にするため次なる行動に出たのです。
団地の一員にために自分の拠点を作る
撮影:STGK
シャッターを下ろしたお店がちらほら見受けられる団地内ショッピングセンターを歩いていると、突如おしゃれなカフェが現れました。
ここは、熊谷さんが空き店舗をリノベーションしたアートカフェ「左近山アトリエ131110」。
飲食店をやってみたい人へ時間貸ししたり、様々なワークショップを開催したり、アートの展示も行うシェアスペースです。
気軽に立ち寄れるカフェが周囲になかったことと、開催されるイベントの質の高さで「左近山アトリエ131110」はあっという間に人気店になりました。
しかし、うまくいきそう!と思った矢先に新型コロナウィルスが蔓延し始めたのです。
突如お客さんが0になり、お店も一時閉鎖。この先どうして行こうか考えていた熊谷さんの頭に現れたのは、コンペで提案した8つのプランでした。
「コロナ禍でも屋外イベントなら開催ができる。55ヘクタールもある緑いっぱいの敷地を散歩するイベントはどうだろう?」
こうして開催されたのが「左近山散歩フェスティバル」でした。
まずお店のガラスに団地の地図を描きおすすめスポットをプロットして目的地を決められるようにしました。
各広場にはアート作品を展示したり、アーティストが創作活動をしていたり、道中も楽しめるように工夫。
さらに、道ばたの植物の名前がわかるプレートを設置したりもしました。
普段見慣れている風景をすこし変えて、日常を楽しむためのイベントとなったのです。
以上で今回の左近山団地レポートはおしまいです。
新型コロナウィルスの影響でリモートワークが増え、以前のように遠出が難しい昨今、「暮らし」を考える上で周辺の環境はとても重要なポイントになりました。
最近は全国各地でパブリックスペースの活用が進められています。
例えば、埼玉県飯能市と日高市にかけて広がる西武飯能・日高分譲地では、まちの中心にあたるスペースに地元の木材「西川材」を使ったテーブルや、乾燥中の木材をベンチとして使う「はしらベンチ」を設置したり、地元農家の野菜直売を定期的に開催したりしていました。
これも近隣に住んでいる人たち同士の交流を生んだり、まちに賑わいをつくっていくための取り組みなのです。
みなさんも休日に散歩がてら家のまわりを歩いてみてはいかがでしょう?もしかしたら、まだ見つけていないステキな場所やお店に出会えるかもしれませんよ。
←Prev:「熱中症を予防しよう!カンタン暑さ対策6選」
→Next:「初めてメガネを買いました」
投稿者プロフィール
赤井 恒平(あかい こうへい)
ライター・フォトグラファー。埼玉県飯能市でシェアアトリエ「AKAI Factory」を運営するなど、まちづくり業にも携わっています。
現在は築20年のマンションをリノベーションして家族4人で暮らしています。最近は休日に料理をするのが密かなブームです。
Instagram はこちら